日々読書、時々一杯、折々投資

モグパクです。都内で働くサラリーマンです。 新書・文庫を1日1冊読むのを日課にしてます。あと、酒(主に日本酒)を飲むこと、投資をすることが好きです。

「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」熊谷徹

熊谷氏はNHKで8年間、記者として勤務し、その後、フリージャーナリストとして独立。ドイツに移住し27年間働いており、この日本とドイツにおける勤務経験などを踏まえてこの本を書いています。

タイトルをみると、単純に日本とドイツを比較しひたすらドイツが良いと礼賛するような本ではと思われます。たしかに、ドイツが良いと評価するスタンスですが、それにとどまらず、日本とドイツに差があるのはなぜなのか、という原因を、日本やドイツの習慣、考え方、制度などを具体的紹介する形で説明しています。

とても面白かったのが、

ドイツでは法律で1日10時間以上働くことが禁止され、それに違反した場合の罰金を会社ではなく管理職の自腹で支払うことがある

という点です。一見、会社が払うべき罰金を個人が払わされており、滅私奉公の典型にも見えますが、こうすることで、部下が10時間以上働くことがないよう管理職が真剣に取り組むことを狙っています。10時間以上の労働禁止とかは、日本でやると、単なる職場での呼びかけ、スローガンで終わってしまい、お互い努力しましょう、という程度の話で実際は実現できず、というのがよくあるパターンですが、実際に実現できる仕組みまで設計されているところは、ドイツらしい論理性を感じます(性悪説とも言えます)。

また、ドイツでは、企業で雇用される労働者全員が、労働契約書を企業と締結しています。労働契約書には社員の業務内容、義務、権利、禁止事項、給与、所定労働時間などがこと細かに規定されています。ドイツの労働者は、労働契約書に規定されていない業務は上司の指示であっても、規定されていないことを理由に拒否しており、これが、ドイツの労働者が過重労働することがないことのよりどころとなっています。一方、日本の場合、労働契約書はなく、上司の指示には無制限に応じることが通常となっており、これが、過重労働の原因の一つであることは明らかであり、日本でも労働契約書の締結を義務付けることはとても良いことですね。ただ、労働契約書を締結するには、事前にどのような業務をすべきかということを上司が適切に予想することが必要となりますが、日本の場合、そのようなことのできる上司は極めて少数派ですので、労働契約書を導入すれば、日本の労働環境が大きく変わることは間違いないでしょう。

ドイツの労働者は、2~3週間まとめて休暇をとる傾向があります。長期休暇については、かねてから言われていたことで目新しいことではありませんが、なぜそのような長期休暇をとるのか、とドイツの労働者に尋ねると、仕事のことを忘れるのに1週間かかるのでリフレッシュするには2~3週間の休暇が必要、というものでした。ドイツの労働者も日本と同じで休暇中も仕事が気になるのだなあと仲間意識を感じる一方、仕事を完全に忘れたリフレッシュをとることが仕事を適切にするためにも重要という意識があるところは、日本と違うなあと感じます。

日本とドイツの比較ではありませんが、こんな興味深い指摘もされています。

なぜ、日本では、過労死の問題が短期的には注目されてもすぐに関心が失われてしまうのか、という理由について、報道するメディア業界の人が長時間労働が当然という世界で働いているからである、という指摘がされてます。つまり、理屈としては長時間労働を制限すべきとしても自分の実体験からすると本音ではそんな制限できるはずがないと思っているので、過労死問題についての関心が低いということでしょう。NHK出身である熊谷氏ならではの分析ですね。

ドイツのような働き方をするには、法律や会社の制度を変える必要もあり、とても一個人の努力だけでは無理ですが、でも、自分自身、あるいは、働く部署全体で、今後は1日10時間以上は働かないと決める、労働契約書の代わりに具体的な業務内容とそれを完成する時期を決める、といったことは明日から自分の周りで実行することは十分可能でしょう。

また、人の意識も変える必要があります。他人の意識を変えるなどおこがましいことではありますが、みんなが互いにこんな意識を持つことができればという期待を込めて紹介します。

「誰にも、できることの限界がある。私はこの限界に達したのだ。」(ディロ・ザラツィンン、ドイツの評論家)

誰でもミスはしたくないもの。それゆえ、どうしても長時間労働、過重労働になってしまいますが、このように寛容な意識を持つことができれば、過重労働を減らせるのではないでしょうか。

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「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」SB新書409

2017年10月初版第1刷発行

著者 熊谷徹

発行所 SBクリエイティブ株式会社