日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

「若者はなぜ3年で辞めるのか?」城繁幸

城氏は富士通の人事部門で勤務し、その後同社を退社し現在は、人事コンサルティングとして活躍しています。この本は、そんな城氏を代表する著書の一つであり、また、そのタイトルはとても共感できるものなので、以前から読んでみたい本の一冊でしたが、なかなか読む機会がなく、やった今回読むことができました。初版1刷は2006年ですので、あきらかに遅すぎではありますが・・・

タイトルの疑問の答えは、冒頭に端的に指摘されています。「閉塞感」。この答え自体は、ある程度は予想できるものですが、この本は、その原因つまり「閉塞感の正体」をきわめて説得的に分析しています。人事問題にしろうとの私ですが、納得してしまうものでした。

よく言われることは、新人で入社したものの、自分のやりたい仕事と実際の仕事のギャップ、つまりミスマッチが辞める原因と言われ、このことは、上の世代からみると、最初からやりたい仕事ができると思うなんて我慢が足りない、という不満につながります。

この本でも、このギャップについて指摘していますが、巷でよく言われるときは、このギャップを指摘し、若者あるいは上の世代のどちらかの見方を支持して終わり、という感じですが、この本は、そのようなギャップが生じる原因を具体的に分析しているところが画期的です。文句を言っている上の世代(採用する側)の採用方式の変化に原因があると指摘していますが、きわめて説得的でありかつ皮肉的です。

分析はさらに続きます。仮にギャップがあるとしても、だからといってすぐに辞めるとは限らないという点を指摘し、では、なぜ辞めてしまうのか、ということを指摘しています。年功序列の人事体系の存在と、以前はそうではないものの現在はそれが、多くの若者に働き損を強いるシステムに変質しているからであると指摘しています。このように書くと、給与といった金銭的な話をイメージすると思います。もちろんそれはあるのですが、それだけでなく、いつまでも下働きに甘んじないといけないという「仕事のやりがい」という面で報われないシステムであるという精神的な側面も指摘しています。

一方、現在の年功序列のシステムの犠牲者として、若者だけでなく、30代、さらには、中高年もあげています。とくに中高年は、年功序列のシステムが機能していた時代の人であり、その恩恵を受けていた年代であるのは間違いないですが、一方で、それは一部にすぎず、年功序列という、年齢を最大の評価基準とするシステムの厳しさ、冷酷さを指摘しています。

とはいえ、年功序列の最大の被害者が若者であることは間違いなく、この本は、日本の少子化の原因も、この年功序列にあることを指摘しています。通常、少子化の問題は、保育所の確保、夫の育児参加といった議論になりがちですが、よく考えてみれば、仕事すなわち収入が確保できなければ若者が子供を持つことに躊躇するのは当然であり、仕事・収入は人事システムに連動するのですから、年功序列少子化の原因の一つという指摘は、慧眼と言えるのではないでしょうか?

城氏はこの本を通じて、年功序列を前提として疑問を持たず大会社に就職すれば人生が保証されるという従来の価値観から若者が解放され、自分自身としての働く理由を見つめなおし、そして行動することを求めています。行動を起こせば反発が起こり、また、失敗するリスクもありますが、それに対する考え方もこの本は示しており、私自身がこんご迷ってしまったときの支えとして、特に印象に残った部分を紹介します。

『たとえば、明確に「自分は~をやりたい」という動機のある人間なら、転職は個人と募集企業の双方にとってハッピーな結果に終わる可能性が高い。

だが、転職の理由が「社風が古い」「もっと面白い仕事がしたい」程度の漠然としたものなら、それは転職によって解決する可能性はむしろ低いだろう・・・彼ら”転職後悔組”に共通するのは、彼らが転職によって期待したものが、あくまでも「組織から与えられる役割」である点だ。言葉を変えるなら、「もっとマシな義務を与えてくれ」ということになる』(210~211ページ)

『上司に対し、自分の希望を伝え、望むキャリアに沿った業務を勝ち取る・・・だが、周囲の昭和的価値観を持った人間たちは、おしなべてこう言うだろう。

「若い時分は何も考えず、与えられた仕事はなんでもこなせ。給料が上がり、仕事も選べるようになるのは、私のように出世してからだ」

では、必ず出世させてもらえる保証があるのか?「ビジネス動向にかかわらず、必ず序列を引き上げます」という社長印つきの念書でも取らない限り、こういう発言にはすでになんの根拠もない』(217~218ページ)

『転職を申し出たとすると、こう返す人間もいるはずだ。

「それでは無責任だろう。きちんと結果を出してから言うべきことは言え」

無責任なのは彼自身だ。・・・かつての企業に対する滅私奉公は、将来序列が上がるという対価があってこそ成立した暗黙の契約だ。その対価の保証がなくなった現在、すでに契約も空文化していると言っていい・・・組織内において「まず結果を出す」ことはたしかに重要だが、組織の側が「それにふさわしい対価を用意する」こともそれ以上に重要なのだ』(218~219ページ)

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「若者はなぜ3年で辞めるのか?ー年功序列が奪う日本の未来ー」光文社新書270

2006年9月初版1刷発行

著者 城繁幸

発行所 株式会社光文社