日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

マネジメントはじつは誰にでもできる技術であることがわかる本

「上司につける薬!-マネジメント入門」高城幸司、講談社現代新書1857、2006年9月第一刷発行

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タイトルからすると、職場にいるダメ上司の例を紹介し、そういう上司にどのように対応したらよいのか、というような本かと思っていましたが、ちょっと違いました。「マネジメント」という、通常は社長など経営者に対して求められると思われているスキルが、じつは、経営者だけでなく、課長など上司全般にも求められているスキルであり、具体的にどのようにすればいいのかということを紹介する本でした。たしかに、サブタイトルには「マネジメント」という言葉がありますが、なぜこのタイトルにしたのか、ちょっと不思議です。

 

それはさておき、高城氏は「マネジメント力」として、判断する、叱る、任せる、心躍らせる、伝える、信頼される、という6つの技術をあげていますが、判断するの部分がもっとも参考になりました。

 

「判断する」については、非常事態のときこそそれが求められるとした上で、「ぶれない答えをする」、「一度決めたら後戻りしないで前に進む」、「材料は全部引き出す」という3つが判断力と高めるためのポイントとしています(38~39ページ)。ポイントとしては書いていませんが、さらに大事なこととしては、「素早い判断」(44ページ)、「80パーセント理解できたら、残りの20パーセントは理解できなくても判断する覚悟をもつ」(51ページ)があります。一方で、スキルとしては説明されていませんが、とても印象に残った記述があります。

「上が言うから仕方なかったんだ、すまん」などと、感情だけで処理するマネジャーがいるが、それではダメだ。メンバーが本気で取り組んでいればいるほど、その場しのぎではなく、マネジャーも本気で頭を働かせ、本気で言葉を尽くすこと。それがあなたが相手に示すことのできる最高の誠意のはずだ。一人の不平は残っても、組織全体は守る。これが、マネジャーのすべき判断だろう(45ページ)

 

メンバーに対して、「何をやってもいい」ではなく、「これをやりなさい」でもなく、道筋をつけてやる。そしてその道筋の範囲内は自分が責任を持って、メンバーがのびのびと仕事をできるようにするのである。もちろん、メンバーがその道を走る過程では、細かい個々のスペックを判断する必要があるが、道の途中でのことは思い切りやらせるのが基本である。道から外れそうな際どい局面を見極めて、そのときには的確に判断してやるのだ・・・確かに、そうできるためには潔さが求められる。そうしてその潔さがなかなか発揮できないマネジャーは多い。なぜだろう?世間では、その人の器の大きさとか性格に原因を求めたりするが、私は根本原因はそこではないと思っている。彼らは単に、マネジメントとは何なのかをわかっていないだけなのだ(56~57ページ)

 

マネジメントが性格に起因するのであれば、正直自信はありませんが、理解の問題であるならば、自分でもできるかも、とちょっと希望(笑)がもてます。

 

ほかにも勉強になる記述があります。「叱る」についてはここが勉強になりました。

人は、「自分の言葉で話す」ことで初めて、深い部分から価値観を変えることができるもの。「今度からミスしないように、チェックシートをつくってこうやれよ」なんて言うだけ言って「以上!」にしないこと。それでは、本人の腑に落ちない。腑に落ちていないかぎり、反省したとしても、同じことをしてしまいがちである。どんなに拙い言葉であろうと、策であろうとかまわない。本人自身の言葉で「二度とこういうことをしないように、こういう手を打ちます」と提示させるよう心がけてほしい(79~80ページ)

 

人間は前の状況をどうしてもひきずるものだた。でも、あとには現場の仕事が待っているのだから、ダメージを最小限にとどめるよう配慮したい。たとえば話の最後で「はい、この件はこれでおしまい」と締める。「じゃあ、このあとがんばってね」と、次のシーンから元の業務にすっと戻れるようにしてやるのだ。パーンと手を打って、場面転換を図るようなものだ(83ページ)

どちらも、高城氏の鋭い人間観察力が発揮されていると思います。

 

「任せる」においても人間観察力が発揮されています。高城氏は、なんでもやりますと言う楽天派タイプ、自分には無理とすぐに言う悲観派タイプに分類した上で、前者には本人ができると言った8割ぐらいの課題量にし、後者にはそれの2割増しぐらいの課題量にして仕事を任せるべきであるとしています(88~89ページ)。

このほか、命令口調を避け、その仕事の大事さ、魅力を伝えることで、メンバー本人から、「やります」「できます」「やりたいです」といった言葉を引き出すようにすること(90~92ページ)、締め切り前の途中段階で状況報告を求めたり、問題があれば打ち合わせをしようと声をかけることで、時々さりげなくチェックを入れて大失敗が起こらないようにする(94~96ページ)、メンバーの将来なって欲しい具体的なモデルや人材のイメージを、日頃の観察結果を踏まえてリアリティのある内容で示すことで期待をかける(96~100ページ)といった技術も紹介されています。

 

よくやってしまいがちなんだけど、じつはやってはいけない行動も紹介されています。「叱る」についてです。

「自分ができないことを他人に期待なんかできない」と思う人がいるかもしれない・・・これは間違った考えだ。「ボクができなかったから言いづらいんだけど」「環境の厳しさは重々わかっているから申し訳ないと思っているけど」・・・・・・。こんな言い方をされたら、メンバーだって気持ちよくない。マネジャー自信ができるかどうかで語られると気分がよくない、というのは、逆の場合を考えると理解しやすい。「オレにもできるんだから、君にもできるはずだ」という言い方だ。「いや、あなたと私とはちがう」と反射的に思うのが普通ではないだろうか。メンバーのためにも、マネジャーが何かを期待して求めるときは、「自分のことを棚に上げ」て「君ならできる」と声をかけることだ(104~105ページ)

「心躍らせる」技術も紹介されています。「心躍らせる」というとなんかすごい難しく感じられますが、誉める技術といわれれば、イメージできます。一方で、意外とこれが難しい、苦手ということは多く、私もそのタイプです。高城氏は端的にこう述べています。本当に、高城氏の人間観察力は鋭いです。

どんなメンバーでも、誰が何を誉められているかは、実によく見ている。とくにライバルがどう評価されているかは、よーく観察してチェックしているものだ。同じことをしたのに私は誉めてもらえなかった、などと誉め方にアンバランスさを感じたら、即座に「あの上司は、彼のほうを大事にしてるんだな」と敏感に(ときに過剰に)反応する。こうした反応は、すべて「誉められたい」とい想いの裏返しに他ならない。マネジャーはその心理をしっかり踏まえたうえで、「成果を出したとき」に「みんなの前で」「平等に」誉める基本を守ってほしい(114ページ)

誉める以外の技術も紹介されています。メンバーの心を躍らせるためには、メンバーがどういうこでワクワクするのか、何に関心を持っているのかを日頃からつかんでおくことが大事とし、そのため、ふだんの雑談の中で、仕事抜きで楽しいと思った瞬間は何か?、学生時代に一番力を入れたことは何か?といったことを引き出すことを紹介しています(120~121ページ)。高城氏の人間観察力の鋭い理由のひとつが分かったような気がします。

このほか、「伝える」については、説明責任の必要性が紹介されています。これはある意味文字通りといえばそうなってしまいますが、こう言われると納得です。

マネジャーの説明責任とは、メンバーに対して組織の情報を開示し、伝えねばならないことはその都度、適切に伝えることをいう。わかりやすくいえば、メンバーが「そんなの聞いてないよ」ということのないようにすることだ・・・「オレだけ聞いているんだけど」というように情報を小出しにする人は、呆れられるだけである。マネジャーは、「伝えるべきこと」を「公明正大」に「全員に対して」示すのが任務だ(130ページ)

後半のマネジャーの行動、ついついやってしまいがちです。耳が痛い・・・。

 

さいごは、「信頼される」です。おそらく、ここまでの5つの技術を実行できれば、自ずとメンバーから信頼されるような気もしますが、高城氏はさらに必要なことを指摘しています。

常にメンバー本位に動く、これを守ることだ・・・この例題の場合、第一優先はお客様のクレーム対応だ。それをメンバーに伝えて相談は待ってもらう・・・逆に「あっ、この人はわかっているな」と納得してくれるはずだ。「もし自分がお客様のクレームを伝えたら、このマネジャーは他を差おいて対応してくれる」と知ることができるからだ・・・クレーム処理をしたら次は?もちろん部下の相談、上司と面談、の順だ(141ページ)

クレーム対応が最優先なのは容易に想像できますが、部下の相談を上司との面談より優先というのは意外でした。元々そうしているという人はなかなかいないのではないでしょうか。高城氏の行動はそうとう徹底しています。

いくらメンバー本位に行動していても、ときには状況が変わって約束が果たせないことも起きる。これは朝礼暮改とはちがう。会社は常に変化しているのだから仕方ない。不可抗力だ。問題は、そのときの対処法。素早くこの事実を相手に伝えるのが正解。あいまいにしたままで放置して信頼を失ったら、そのときはあなたの責任だ。

「この間は君の事業について前向きに判断したいと言ったが、状況が変わった。なぜなら・・・・・・。」メンバーだって理不尽でなければ納得してくれる・・・「約束したことを全然進めてくれない」と思われたら、その後は何を言っても「今は大事といっているけど、すぐ大事じゃなくなる。会社の方針でころころ変わるから、相談しても無駄になるかもしれない」と疑われる存在になってしまう一度失った信用を回復するのは容易ではない(142~143ページ)

 説明責任にも通じる話です。このほか、「(メンバーの)自慢話よりも困った話」を優先して聞くことも重要としています。

 

こうしてみると、入口はマネジメントということでかなりハードルが高く、一部の人にしか関係ないようですが、実際にするべき行動をみると、とうていできないというようなことはありません。むしろ、本人の気持ちの持ちようで何とでもなることばかりだということが分かります。

 

読んだ後は実行あるのみです。