日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

「質問力」が人間関係を決める、「質問力」を磨くための本

「人を見抜く「質問力」-あの政治家の心をつかんだ66の極意」御厨貴、ポプラ新書105、2016年10月第1刷発行

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御厨氏は「時事放談」という番組の司会を2007年から10年つとめているそうですが、ざんねんながら、私はその番組を見たことがありません。おそらく、日曜朝にやっている政治番組のひとつと思われますが・・・。

でも、じつは、別の本で、御厨氏が「オーラル・ヒストリー」の日本における第一人者であると読んだことがあり、和訳すると「公人の口述筆記」となるのですが、口頭での質問でどうやって迫真に迫るのか?興味があって、この本を読んでみました。

 

迫真に迫るというと、相手の言うことを否定し、論破し、あるいは、威嚇し、といったような好戦的な態度がイメージできますが、御厨氏が述べる態度はそれとは正反対です。

野球にたとえるとさしずめ質問者はピッチャーであり、答える側はバッターである。本来、バッターに打たせないようにするのが野球だが、「質問と回答」という観点から見ると「相手にいかに打たせるか」ということが重要になってくる。質問者というピッチャーは、バッターが気持ちよく打ちやすいボールを投げる必要がある・・・バッターを三振にとってやろうとか、抑え込んでやろうというような「勝ち負け」に囚われた邪な気持ちが質問者にあってはならないし、ストライクがまったく入らないようなノーコンピッチャーでもバッターは困ってしまう。質問力のある人とは、バッターの打ちやすいボールを投げられる人という意味なのである(17~18ページ)

御厨氏の質問力の本質が端的にあらわれています。野球のたとえ話はとても分かりやすいのですが、実際にはどうしたらいいの?という疑問が生じてしまいます。御厨氏は、それを一問一答的(厳密には違います)な分かり易いまとめ方で示してくれています。読者にも打ちやすいボールを投げているということでしょう。

相手から大事な話を聞こうという時、場所のセレクトというのはとても重要なポイントとなる。相手から何かを聞きだしたいことがあるなら相手のホームグラウンドで。本音を引き出すにはそれが鉄則なのである(22ページ) 

 場所にまで気を使う御厨氏の緻密さには脱帽です。

相手の目線に慎重に合わせてこちらも対応しなければならないのだ。この場合の「目線」を合わせるとは、相手のしゃべりに合わせるということではなく、相手の見ているところをこちらも見ていくという意味である。絶えず相手がどのレベルにあるのか、何を話さんとしているのか、それを理解したうえで会話し、質問を紡いでいくのだ(26~27ページ)

好戦的な質問者とは対極的な姿がイメージできます。

真摯な姿勢で会話をすれば、どんな質問だろうと相手は答えてくれるものなのだ。「不勉強で申し訳ないんですが」と自分の怠惰をごまかすような質問の仕方は避けたほうがいい・・・真摯な姿勢は相手を気持ちよくし、怠惰な姿勢は相手の気分を害する。それは日常の人間関係でも同じことが言えるのではないだろうか。その他に相手を気持ちよくさせるものとしては、「褒める」という手法もあっていい。しかしそれにもほどよい「按配」というものがある。相手を露骨に褒めたり、あるいは歯が浮くようなお世辞を言ったりして相手の気分を損ねては元も子もない。肝心なのは、「すごいですね」と素直に評価することなのである。会話をしながら相手を気持ちよくしていくうえで、「持ち上げすぎ」は厳禁なのだ(30ページ)

これも先ほどと同じで、好戦的なイメージとはほど遠いです。質問で聞き出すというと、なんとなく相手の隙をつくようなテクニック的な話をイメージしてしまいますが、御厨氏の手法が泥臭い方法なのが意外です。

落語には、本筋に入る前に小咄を語る「枕」というものがある。私は取材相手と交わす序盤の会話はこの枕と同様だと思っている。序盤の雑談はインタビューにおける一定の「型」であり、「儀式」でもあるのだ。会話の中の無駄話を無駄として切り捨ててしまうのは簡単なことである。しかし、会話そのものを大局的に捉えれば、無駄話も決して無駄なものばかりではないことがわかるはずだ(42~43ページ)

この部分だけみると普通のことだろうと思ってしまいますが、この直前に紹介されていたケースでは、最初に20~30分の雑談、しかも、それが毎回毎回続くというケースです。そのようなケースでもこのように言えるのか?と考えてみると、御厨氏の述べる内容のレベルの高さが実感できます。

相手と会話のリズムができあがっている時、合いの手をいれることでより一層会話が弾む。こういう場合であれば「話に割って入る」ことは可といえる・・・質問者側が言葉を足していくことで発想が広がっていく「足し算タイプ」は、リズムさえ掴めば話しに割って入っていい。気をつけなければいけないのは、足し算タイプとは対極にある「引き算タイプ」の人である。引き算タイプの人は、考え方がネガティブですべてを悪いほうに捉えてしまう。だから、こちらが何か言葉を挟もうものなら、「私の意見に反対した」とか「せっかくしゃべっているのに私の話を聞いていない」となる・・・私はいつも質問に入る前の雑談で、この人は足し算タイプなのか、引き算タイプなのかを見極めるようにしている。強面だからといってその人が引き算タイプとは限らない。外見や印象に囚われることなく、まずは現場で感じたことを質問に生かしていけばいい(45~46ページ)

先ほど雑談に付き合うという話がありましたが、なぜそうするのか、御厨氏なりの作戦があることがわかります。それにしても、雑談から相手のタイプを分類してしまうとは、御厨氏の人間観察力はすごいですね。御厨氏には何も隠せないと覚悟するしかないです。

男性の場合は、質問者の敷いたレールに乗っかってくれるようなところがある。しかし女性はあまりそこに乗ってはくれない・・・頑固さでいえば、男性より女性のほうが圧倒的に頑固である。答えたくない質問には、絶対に答えない・・・つまらない質問だと思ったら露骨に嫌な顔をするのも、女性のほうが圧倒的に多い(125ページ)

そもそも、女性のほうが男性よりおしゃべりがうまい。男と女が口喧嘩しても、勝つのはたいがい女性のほうである。そんな女性の特徴を理解さえしていれば、ある程度女性に相応しい質問の対応もできてくるはずだ。男性にするのと同じような調子で女性に質問していては、邪険に扱われ、最後はせいぜい自爆するのがオチである(127ページ)

 御厨氏といえでもオールマイティではないことを示すとともに、女性には女性が打ちやすいボールを投げているとも言えます。

主義主張が異なる相手に取材する時は、気乗りしない場合もあるだろう。しかし、私はそんな相手でも関心を持って、さらに好意というものを持って臨む必要があると思っている。ただ、この場合の好意とは、相手に気に入られようと媚びへつらうという意味ではない。「どんな話であれ、あなたの話をすべて聞きますよ」という好意を示すということだ。「あなたとは主義主張、意見が異なりますが話だけは聞きます」というような相対する態度では相手もそれを察し、本音や本心を語ってくれはしない(141ページ)

御厨氏の質問力の真骨頂が発揮されていると思います。

 

ここまでは、御厨氏のいう良いピッチャーの具体的な振る舞いが述べられている箇所を紹介しました。一方で、質問にはテクニックが大事なのも事実で、そういうテクニックも紹介してくれています。

私はオウム返しの質問には言葉を濁したり、冗談でごまかしたりして絶対に答えないようにしている・・・質問に質問で返す人の心理を深読みすると「あなたが答えられないような質問を私にするなよ」というメッセージを発しているのである。しかし、質問者はそれに気づかぬふりをして、あくまでも相手に答えを求めていかなければならない。その駆け引きのテクニックも質問力の大事な要素なのだ(76ページ)

御厨氏のタフさを垣間見ました。

剛タイプでしかも頑なにガードを外さない相手と当たったら、何かを引き出そうとすることは早々に諦めたほうがいいかもしれない。深入りせずどこで見切りをつけるか。そんな感覚も良好な人間関係を築くうえで欠かせない要素のひとつなのである(92ページ)

直感的には、諦めが肝心、という話かなあと思いますが、人間関係の話を聞くと、それは、そのような消極的な意味にとどまらない、人間関係を良好にするための極意のひとつと思えます。

私がAという事柄に関して聞きたいのに、相手がBのことしか話さない時があったとする・・・中にはこちらがいくらAに持っていこうとしても、Bのことばかり話す人もいたりする。そうした場合はとりあえずBの話を聞くだけ聞き、「では改めて伺った際にAのことをお聞かせ願います」といってその回は打ち切ればいい。こちらの意図と関係のないことばかり話す相手の時は粘り強さが求められる。そんな粘りさえ失わなければ、聞きたいことを聞きだせるタイミングは必ずやってくるはずだ(145ページ)

ふたたび御厨氏のタフさを感じます。最後の確信には、これまでさまざまなインタビューを経験してきたことに裏打ちされたゆるぎない自信を感じます。

本来は取材する側がリードしなければならないインタビューが、終始大物政治家のペースで進んでいたのである。その理由は取材が終わってから明らかになった。取材は大物政治家の事務所で行われたのだが、取材が終わると当たり前のように食事が出てきたのだ。取材スタッフは大物政治家と談笑しながら料理を口にしている。もちろん、食事代は大物政治家の奢りである。どうやら、取材が終わると毎回そのように食事をしているようだった。夕方から取材が行われた場合はそこに酒も入ってくるらしい。これでは相手に取り込まれて当然である(157ページ)

ただほど高いものはない、昔から言われているとおりですね。相手につけいる隙を与えないということの大事さがよくわかります。

 

御厨氏の質問力のすごさはよく分かりましたが、御厨氏は「オーラル・ヒストリー」の仕事をしているか必要かもしれないけど、自分には関係あるの?という疑問が生じます。

日本人は昔と比べて饒舌な人が増えたように思う・・・これだけ自分が話すことに熱心な人が多ければ、反対に「聞く」という行為はとても重みを増すと思う。「いい質問者」はいうまでもなく「いい聞き手」である。「いい聞き手」を相手に話せる人は幸せである。なぜならば、しゃべっている内容をきれいに整えてくれ、さらに風通しのよい道へと話をスムーズに先導してくれるからだ・・・饒舌すぎる現代人というのは、「いい質問者」「いい聞き手」が決定的に不足しているからなおさらそうなっているのではという気がしてくる・・・人間関係が希薄になり、殺伐とした世の中で、「いい質問者」は紛れもなく貴重な存在である。質問力を磨くことは今後仕事や人間関係などさまざまな局面で一層求められてくるに違いない(203ページ)

「いい質問者」は読者が何を疑問に感じ質問したがるのか、ちゃんと予想しています。さすがです。