日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

周りとコミュニケーションをとるのが苦手と感じる方に読んでいただきたいおすすめの本

「聞く力 心をひらく35のヒント」阿川佐和子、文春新書、2012年1月第1刷発行、2012年2月第3刷発行

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発売当時とても話題になった本です。2か月で第3刷まで発行されているということにそれが現れています。阿川氏による、週間文春の「この人に会いたい」という対談連載は、1993年5月から始まり、この本執筆時点900回を越えているそうですので、これはなかなか見ることのできない記録だと思います。

インタビューというから専門職のように聞こえるかもしれませんが、つまりは質疑応答もっと日常的な言葉を使えば、「会話」ということですからね。職場で上司や部下と会議をするとき、仕事帰りに居酒屋で同僚の愚痴を聞くとき(中略)家に帰って家族の悩みごと聞くとき、奥さんのお喋りに答えるとき(中略)など、人間はあらゆる場面でインタビューをしなければならない。つまり人は生きている限り、誰しもが、「インタビュー」に始まって「インタビュー」に終わるといっても過言ではないのです(35ページ)

阿川氏のように対談を仕事としている方にしか「聞く力」は関係ないと思いがちですが、でも、たしかに、対談かどうかに関係なく、「聞く」という行為は、ふだんの生活の中でいっぱい行なわれています。

相手が「この人に語りたい」と思うような聞き手になればいいのではないか。こんなに自分の話を面白そうに聞いてくれるなら、もっと話しちゃおうかな。あの話もしちゃおうかな。そういう聞き手になろう(32ページ)

この本では35のヒントが紹介されていますが、この内容が一番基本のような気がします。このヒントがベースにあって、いろんな場面に応じて応用していくというような感じでしょうか。

会ってみたら、予想だにしていなかったことが起こる場合もあるからです。そして、「この話と、この話と、この話を、この順番に聞いていこう」と計画していた自分の思惑が、一気に崩されることもあり得ます。予定を崩されたときにどうするか(中略)ちょっとだけ崩されたままにしておいて、なるべく早く軌道修正して予定通りの話題に戻す。それも一つの方法です。しかし、崩されてみると、どうやらそちらのほうが面白そうだし、大事な話のようだし、なによりお相手がたいそう乗っている雰囲気。ならばそのまま流れにまかせて、全面的に方向転換をしてしまおう。それも、悪くない方法です。そして話の流れの様子を見て、当初の「聞きたかったこと」とちょうど話題が重なったり、あるいは余裕が出てきた頃、元に戻せばいいのです(65ページ)

阿川氏はインタビューはまだ修行中と述べていますが、この内容からは、ベテランのインタビューアーの余裕が感じられます。この話、ふだんでも活かせそうですね。例えば、会議をしていて予定していたテーマから話がそれていった場合、すぐに修正してもいいですが、しばらく様子を見ていると、かえって面白い意見やアイデアが出てくる、というような感じかもしれません。インタビュー、会議、どちらにしても、相手(出席者)にどんどんしゃべっていただくことが大事ということですね。そのためなら、テーマから話がそれてしまうことも構わないということでしょう。

インタビューの最中は気づかなくても、あとになると、明らかに、「次の質問に心を奪われているな」ということが見えるのです。つまり、相手の話をちゃんと聞いていない(215ページ)

無理に話を戻そうとすると、こういことになるということなのでしょう。相手の話よりも自分の次の質問が気になっている、日常会話でも本当によくあることです。

どんなに真面目な話をするつもりでも、人間同士、とりあえず相手の気持を思いやる余地は残しておきたい。本題に入る前に、まずその眼帯の苦しみを聞き手が理解していることを示す。そういう気持を伝え、様子を測りつつ、こちらの聞きたいことをぶつけていかなければ相手は聞き手に心を開きにくいだろうと思います(74ページ)

自分の聞きたいことばかり気にするのではなく、相手が聞いて欲しいことに気を配るという言い方もできそうです。ふだんでも、いきなり用件に入るのではなく雑談をする、ということはよく言われますが、その雑談は、相手が話したがっていることについてするのがいいということも言えそうです。阿川氏が述べているこの場面では、インタビューの相手は直木賞を受賞した作家ですので、当然直木賞の話をインタビューするつもりでしたが、作家が眼帯をしていたので、直木賞の話より前に、まずは、眼帯のことを聞いています。

前もって、「今日のテーマ」を示されていた場合、聞き手にお会いする前に、「これと、これと、これについて話そうかな」と見当をつけて出かけるのですが、聞き手の誘導によって、ふっと、忘れかけていたエピソードを思い出すことがあります。初めて気づくこともあります(中略)人間が人間と語り合う会話だからこそ、どこへ飛んでいき、どこで何に気づくかは計り知れない(中略)聞き手は語り手の、そんな脳みその捜索旅行に同行し、沿いつつ離れつつ、さりげなく手助けをすればいい(97~98ページ)

2つ前にご紹介した話と似ていますが、ここでは、そもそも語り手が最初に話そうと思っていたことを聞く、ということだけでなく、語り手自身ですら当初は話そうとは思っていなかったことも含んでいます。そうであれば、聞き手が当初予定していた質問にこだわらないということは当然のことに感じます。

じっと待っていると、相手の心や脳みそがその人なりのペースで動いていると感じられることがあります。決して故意に黙っているわけではない。今、お相手は、ゆっくりと考えているのだ。そのペースを崩すより、静かに控えて、新たな言葉が出てくるのを待とう。その結果、思いもかけない貴重な言葉を得たことは、今までにもたくさんありました(222ページ)

相手が話している状態ではないので、先ほどのとはちょっと場面が違いますが、聞き手の予定どおりにはいっていない場面という点では、通じるところがあります。

人はそれぞれに、それぞれの人に向き合う顔がある。逆に言えば、一人に対して自分のすべてを見せているわけではない。しかし、向き合っている相手からしてみれば、自分に向けられている顔がその人のすべてに見えてしまう。だから、自分の知らない「思いも寄らない顔」を発見したとき、ショックを受けるのではないか(140ページ)

インタビュー自体の話ではありませんが、とても興味深いです。ある人に対する周りの評価が、みなさんそれなりに付き合いがあるにもかかわらず、ばらばらであるということはよくあることです。そういうとき、評価する人の見方が違うからと考えてしまいますが、阿川氏によると、それは、評価される人の側の事情の結果であり、言い換えれば、どの評価も正しいということになりそうです。例えば、ある人が自分のことを評価する内容を聞いたとき、それが自分自身にとって意外、あるいはおもしろくない内容ですと、「あの人は自分のことを分かっていない」と思ってしまいますが、自分にはそういう一面もあるという風に受け止めるべきなのでしょう。勉強になります。

「他人のアドバイスが有効に働いたときはいいのですが、何かがうまくいかなくなったとき、そのアドバイスが間違っていたのだと思い込んでしまう。すべての不幸をアドバイスのせいにして、他の原因を探さなくなってしまうのです」(147ページ)

臨床心理学者である河合隼雄氏の発言です。自分が失敗しても人のせいにしてはいけない、とよく言われます。人のせいにすることで、それ以外の原因、言い換えれば、自分自身にある原因を発見できなくなってしまう、さらには、再び同じ失敗をしてしまうかもしれない、ということのようです。何か自分が失敗したとき、本当にある人のせいで失敗したということは十分あり得ることですが、そのときに人のせいにするなといわれても理解できませんが、この話を聞くと、それも納得できてしまいます。

渡辺さんは講演をなさるときも、最初は決してにこやかとは言い難い(中略)壇上に立ち、マイクに向かうや、いつも声は小さめで笑顔はほとんどない。あれ、今日の講演者はなんだか不機嫌そうだぞ。大丈夫かなあ。壇上の渡辺さんを見上げる観客は一様に、不安顔です。椅子の背から身体を離し、少々前のめりになってコトの成り行きを見守ろうと構えている(中略)それまで渡辺さんが怒り出すのではないかと心配していたぶん、そのいかめしいお顔でそんな可笑しい話をしてくださるとは予想外だという気持も加味されて、ますます観客は喜ぶ(167ページ)

人にはそれぞれの愛想の作り方というものがあるようです。そしてそれほどに、人によって初対面の人の前での構え方が違うことをよく承知しておかないと、スタート時点で失態を演じる危険があります。ひたすら愛想良くすれば、相手は必ず心を開いてくれると思い込みすぎると、私のような失敗をするかもしれませんぞ(168ページ)

「渡辺さん」とは小説家の渡辺淳一氏です。とても上手なやり方ですね。聞き手の期待値をあえて下げてることで、同じ可笑しい話であってもより聞き手に喜んでもらうということでしょう。日常生活でもいろいろと応用が効きますね。ただ、阿川氏が指摘されるとおり、このやり方は誰でもできるというものではありません。誰でも向き不向きがありますので、実行しないとしても、知っておく価値はあります。