日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

アーティストと作家とお金

ミュージシャンの岡崎体育氏が発表した新しいファンクラブのシステムがバッシングされています。

headlines.yahoo.co.jp

いちおう大事なところだけ貼り付けておきます。

岡崎さんが同日に発表した「bitfan」は、“ファンの熱量を可視化する全く新しいファンサービス”として始動。ファンクラブ会員が、コンテンツの閲覧やグッズ購入などのアクションを起こすことでポイントがたまる仕組みとなっており、ポイント数で分けられたランクによって、2ショットチェキや握手などの特典を受けられるようになります。
ファンクラブ内でランク付けする同システムは日本初の試みで、発表後には「ファンに優劣をつけるな!」「金をもってない小中学生のファンは置き去りか!?」などの批判を多く受けたとのこと。その後岡崎さんは、Twitterを通して「高い熱量を持って応援してくれてる人への恩返しです」「ただでさえ優劣の象徴であるファンクラブを、細分化しただけでこんな叩かれると思わんかったな」など、やや感情的になりながらも自身の考えを発信しました。

岡崎氏のあたらしいファンクラブシステムはこんな感じでしょうか?たとえば、お店のポイントカードで、通常は100円で1ポイントのところ、月に10000円以上ご購入の方は100円で2ポイント、月30000円以上ご購入の方は100円で3ポイント、というシステム、よく見かけますが、これに対して「けしからん!」みたいな声があがったことは聞いたことありません。

ひょっとしたら不満に思っている人がいるかもしれませんが、そういう人は黙って他のお店に切り替えているのでしょう。そうすると、岡崎氏のファンクラブシステムも同じで、このシステムが不満に思う人は、ファンをやめればいいだけのことではないかと思います。でも、文句を言うということは、ファンをやめるわけではないようです(あるいは、そもそもファンではない人が文句を言っているという可能性もありますが)。

この話を聞くと、図書館の話を思い出します。以前、「図書館は新刊本を入れるな」ということを作家の百田尚樹氏は主張しています(「大放言」(著者:百田尚樹新潮新書 2015年8月発行、同年9月4刷)101~111ページ)。図書館が新刊本を無料で貸し出しているため、出版社や著者が圧迫されており、出版文化を継続するためには、新刊本を図書館に(少なくとも1年間は)置かないことを提言しています。こういう提言に反発する人はいるようですが、そういう人は、情報は無料と思っているのでしょう。

このファンクラブの話に文句を言う人も同じに見えました。ファンクラブは無料であるべきだと。岡崎氏はミュージシャンなので、音楽であり情報ではありませんが、音楽と本、どちらも文化、芸術という意味では共通しています。そういうのは無料であるべきと思っている人が、世の中に一定数いるようです。

たしかにファンだから無料というのはぜんぜん関係ない。アーティストとファンの間、作家と読者の間、お金のやりとりがあるのはぜんぜんおかしくない。はっきり言って、こんかいの岡崎氏の件や、百田氏の提案に文句を言う人は、口先ではいろいろもっともらしいことを言っているけど、けっきょく、お金を払いたくないという本音が透けて見えます。お金ありきはおかしいみたいなことを言っていても、そういう本人がいちばんお金にこだわっていると思う。

でも一方で、こうも思う。ファンというのは、アーティストや作家にとって特別な存在だと思う。単に、本を買ってくれる、CD(?)を買ってくれるという関係、言ってみれば、商品の取引の関係だけでは説明できない世界があると思う。

たとえば、さいきん、ノーベル賞の発表が近くなると、今年こそは村上春樹氏に文学賞をと願う熱心なファンが集まって、村上春樹氏の魅力を語り合ったりしていて、それがテレビで放送されたりしている。これって村上春樹氏にとってはものすごい宣伝効果があると思う。ファンと作家が単なる取引の関係であれば、村上春樹氏はこの人たちにお金を払うべきだけど払っていないし、そもそもこのファンの人たちはお金が欲しくてやっているわけではない。
また、作家の森博嗣氏も著書(作家の収支(著者:森博嗣)、幻冬舎新書、2015年11月第一刷発行)の中で、自分を応援してくれる熱心なファンの存在について触れてとても感謝していると述べている。

その意味で、ファンというのはお金を介在しない特別な意味合いを持っているのは確かだと思う。もちろん、だからお金を払わなくていいとか、無料で本を読ませろみたいな主張はおかしくて、ちゃんとお金を払って本や音楽を楽しむのは当然だけど、ファンと作家やアーティストの関係は、もっと発展し深くなっていくものだと思う。言い換えれば、最初はお金を介在してスタートしても、それが、本や音楽の自分にとっての価値が無限大、プライスレスになると、お金抜きで応援してくれる、という関係に変化するような気がする。すべてがそうなることはあり得ないけど、そういう関係に深まっていくことは、お互いにとって幸せだと思う。

でも一方で、アーティストや作家がお金のために創作活動してますというようなことをはっきり言ってしまったら、ファンは幻滅するし、お金を介在しない深い関係に発展するかというと、そうはならないような気がする。

だから、わたしはこう思う。

アーティストや作家は、お金を出して買ってくださいなんて分かりきった野暮なことを言うのはやめた方が良い。