日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

上司、先輩、若手が会社で感じる疑問が、そうだったのかと解消されていく本

話せぬ若手と聞けない上司(著者:山本直人)、新潮新書、2005年9月発行、

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とても面白かった!読み終わった後、というか、読んでいる途中から、そう感じてました。

 

私が三年間で思ったことはただ一つ。このままじゃ、日本の会社も社会もあまりに「もったいない」という感覚だけなのである(中略)日本という国は人的資源、要するに人手だってやりくりしながら頑張って来たと思う(中略)そして、今だってビジネスの現場は忙しい。だったら若い人の力をどうやって引っ張り出せるか考えればいいと思う。若い人の考えや行動に接しながら、どんな話をして来たらどんな変化があったのか。そうした記憶をたどりつつ、背景を考えてみる。そして、世代間の対話のきっかけを探っていこうと思っている(12~14ページ)

 

著者の山本氏は1964年生まれ。年代でいうと、若い人の側ではなく、中高年の人の側になります。単なる若者否定しかしない人もこの年代に珍しくない中、このような考え方をしている人はすばらしいと思います。こういう発想の人が上司だったり先輩だったら、とても良い環境のような気がします。

 

プロジェクトで一緒になった若手社員などともいろいろ話すようになった。ちょっかいを出して飲みに行ったりすると、みんないろいろ考えたり悩んだりしていることもわかってくる。そんな時にしたアドバイスに感謝されたりすることも増えてきた(22ページ)

 

上司との飲みにケーションという言葉は完全に死語となっていますが、ここで述べているのは、まさに飲みにケーション。でも、とってもうまくいっているようで、誘われた若手社員の人も喜んでいる様子。ようはやり方、内容しだいということがよくわかりますし、山本氏の発想がまさに良い形で行動に現われています。

 

私の感じだと今の若者はどちらかというと「猫型」の感じである(中略)今の若者はプライドが高い(中略)そんな彼らは尊敬している人からの言葉には従っても形式的なほめ言葉には反応しない(中略)闇雲に怒っても効かないわけである。だから自然に「恥をかく」仕組みにした。プライドを「軽く傷つける」ことで自覚を高めさせるという発想である。猫型の彼らにはこれが一番こたえるはずだ。細かいルールやマナーを教えこむスタイルをやめて「知らないとカッコ悪い」と思わせるようにしていった(31~32ページ) 

 

とても鋭いです。よく「褒めて」使えみたいなことが言われますが、山本氏はその限界を見抜いています。また、単に山本氏が若者に媚びているわけでもないことも分かります。むしろ、とっても油断できない存在です。山本氏は述べていませんが、これは、行動科学の知見の応用でもあります。

 

mogumogupakupaku1111.hatenablog.com

 

配属を発表すると、最近は希望の叶わない新人が「どうしてですか~」と言ってくるという(中略)どうしてもクリエイターになりたいやつが別の職種になると「お前みたいなタイプがあえてクリエイター以外になることがいいんだ」とか言っていたらしいが当然やめた。「ぜひぜひ、と言うほど才能はなかったんじゃないの」と言うことにした。要するにこれも「社会の掟」である。配属が希望と違うとそれを告げる方も確かにつらい。ただすべては実力だ。中途半端な慰めよりも次への力を与える。見切りは早いうちにつけさせる。それが社会の掟である。配属の正当性を説くのは会社の言い訳を重ねるだけだ(63~64ページ) 

 

これは予想外、というか、ぜんぜん思いつきません。でも、変に新人をなぐさめても、新人もそれが単なるなぐさめなのか本当のことを言っているのか、すぐに気付くような気がします。山本氏の言い方、あえて新人のプライドをちょっと傷つけているような気がして、先ほど紹介した考え方の具体例に見えます。

 

ある若手からは「資格を取りたいのですが・・・」と相談を受けた。その資格を取るには、会社で仕事をしつつ、休日を返上して学んでも最低2年はかかるらしい。「そのこと、職場の先輩に相談した?」「はい」「なんていわれた?」「お前、仕事から逃げているんじゃないか、って」ちょっと悔しそうだが、否定しきれないようでもあった。「まぁ、より難しいことに挑戦することは逃げじゃないと思うけど」「ありがとうございます」「でもさ、今の仕事、ホントに目一杯やってる?」そう問うと口ごもってしまう(中略)夢を持つこと自体が悪いのではない。だが、地に足のつかないままに夢を追った勢いでうっかり会社を辞めてしまうと漂流が始まることもあると思う。本当に覚悟のある人間なら辞めてもいいと思うし、実際に新たな道を選んだ者もいる。そういう者を引き止めたことはない。だが、何かのきっかけでフラリとした者の腕はしっかりつかんで話を聞かないと取り返しがつかないこともある(75~76ページ)

 

最初のやりとり、一見すると、単に先輩が頭ごなしに否定しているだけに見えます。でも、違いますね。本当にちゃんと考えているのか?ということを問いかけています。だったら、そう言えばいいのではとも思いますが、おそらく、そう聞けば、「ちゃんと考えている」という答えが反射的に返ってくるだけで、本人にとって何の気付きや考えるきっかけが得られないことになります。山本氏の人間観察力は相当です。

 

何と言うか「耳年増」な学生が増えてしまった気がするのだ。耳年増の問題点は、自分で未来像をきれいに描きすぎてしまうことにある(中略)そうすると現実との落差に耐えられない。「変化の荒波を常に先取りするリーダーシップ」のもと「不断の改革を続け一人ひとり創造性を高め続ける組織」のケーススタディをいくらやっても、仕事ができるわけがない。なぜなら、そういう成功例を学ぶというのは澄んだスープを飲んでいるようなものだからである。それができるまでの骨や野菜のガラを見せるレストランがないのと同じで、そのプロセスをベラベラしゃべるプロはいないし、いたとしても二流である(97~98ページ) 

 

耳年増な学生に対しては、「現実はそんなものではない」「やったことなにのに分かったようなことを言うな」というのが、上司・先輩の一般的反応です。こういう言い方をされると反発しか起こりませんが、山本氏のように言われると、思わず納得してしまいます。いま若者が上司・先輩に求めている能力は、表現力、あるいは無意識を言語化する力だとつくづく感じます。

 

ビジネス自体の目標というものはハッキリしている。ぶっちゃけて言えば「もっと売りたい、利益を出したい」ということだ。その目標は組織が与えてくれる。そして環境に恵まれてビジネスがうまくいって売れているうちは知恵をさほど使わなくても目標は達成できる。しかし一旦うまくいかなくなると「さて、どうすればいいのか」と知恵を使わなくてはならない。ああやっても売れない、こうやってもお客が来ないとなると、アタマがくたびれる。そうなるとまったく別の疑問が生まれてくる。「何でこんなことやってるんだろう?」そういう根本的なことを考えることはとても大切なのだけれど、タイミングが悪いと泥沼にはまりかねない。できるだけ早いうちにそうしたことを考えておくことは重要なのである。そして、あまり深みにはまる前に現実的な解決策を考える癖をつけたほうがいい。そのためにはまず「疑う習慣」が大切になると思うのだ(105~106ページ)

 

山本氏の言語化の能力は絶好調です。