日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

ちょっと変わった京都本。京都嫌いな人も京都好きな人も一度は読んでみて損はしない本

京都のおねだん(著者:大野裕之)、講談社現代新書、2017年3月第一刷発行、

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初めての飲食店にはいるとき、いったいどのぐらいかかるのだろうか?というのは、誰しも気になるところです。食べログでは、1人当たり予算の目安というのがのっています。じっさいは、食べログ予算に1000円ぐらい足した額になるとも言われていますが・・・。

 

それはさておき、一方、京都の場合、値段のまったく分からないお店というのがいくらでもあります。この本は、そんな謎につつまれた京都のおねだんについて、食のおねだん、季節のおねだんなど、様々なもののおねだんについて解説してくれます。でも、高いからどうこうとか、安いからどうこうという話しをしている本ではありません。

 

とうぜん、いくらという金額の話しも出てきますが、おねだんの話を通じて、京都の文化、生活、風習、京都人の考え方、行動パターンなど、さまざまなことが浮き彫りになります。京都ならでは、京都にしかないものもいろいろありますが、よく考えてみると、昔は、京都以外の地域にも似たようなものがあったけど、いまはなくなってしまい、京都にだけ残っているというものも多いです。

 

たとえば、毎年8月24日前後に行われる「地蔵盆」。町内会単位で行われるお祭りなのですが、よくあるのが、いわゆる一戸建て(土地持ち)の人たちが加入する町内会は地域のお祭りをするけれど、新しくできたマンションの町内会はそんなの知らない、というパターンです。ところが、京都では、マンション住まいであっても、やるべきことをやらなければいけなくて、著者の大野氏が住む京都のマンションでもマンションの町内会が「地蔵盆」をしています。京都ならではという感じです。

ところで、この地蔵盆をするには、名前のとおり、お地蔵さんが必要です。新設のマンションの町内会にはお地蔵さんなどありませんので、どうするのかというと、なんとお地蔵さんを借りてくるそうです。このレンタル料が3000円。これも京都のおねだんの一つです。お地蔵さんのレンタル料なんていうおねだんがあること自体びっくりですが、わたしは、この金額は安いと思いました。(63~73ページ)

 

京都といえば舞妓さんです。花街のお座敷で舞妓さんとお話したり、踊ったりしながらお酒を飲んでなんていうのは、わたしはあこがれますが、しかし、いくらかかるか分からなくて恐ろしくてとてもいけない、というのが正直なところです。こんかい大野氏は、実際に花街で自腹で遊んでみていくらかかるかをこの本で紹介しています。

 

大野氏は紹介者の人と2人でお茶屋さんに行き、お座敷には、舞妓さん、芸妓さん、地方さん3人に来ていただき、料亭の仕出し料理を食べつつ、飲んで遊んで、なんと、夕方5時半から12時まで、6時間半も遊んでいます。お酒も相当飲んだことでしょう。

大野氏は、実際に送られてきた請求書の写真をこの本に載せています。なかなかこういうものは見られません。というか、よく載せられたなあというのが驚きです。お茶屋さんの許可をとって載せたのだと思いますが、お茶屋さんも意外とオープンなのかもしれません。

 

実際いくらだったのか、ここでは書きませんが、数万円では納まっていません。これを高いと思うか、安いと思うか、考え方はいろいろですが、少なくとも、金額自体は決して安くはありません。でも、大野氏はこう述べます。

 

京都人がお茶屋に通うのは、そこが安いと感じるからだ。それ自体が美術品である建物に、絢爛たるお着物と飾り、なにより舞妓・芸妓・地方の磨きぬかれた芸は、絶対に嘘をつかない。お茶屋に限らず、最良の京都には本物しかない。そして、そのおねだんには、決して定価があるのではない。店と客の、人と人との「関係」のおねだんであり、それは請求書を受け取った客が己の価値を知る数字である(207ページ)

 

京都好きな人も京都嫌いな人も、文章の内容への賛否はともかく、読むと心の琴線にふれる一文です。