日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

ただの伝え方、営業テクニックの本ではない。伝え方を通じて、どの分野、業界でも生き抜くために必要な本物の力を教えてくれる本

90秒にかけた男(著者:高田明、木ノ内敏久)、日経プレミアシリーズ、2017年11月1刷、

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著者の高田氏は、長崎のテレビ通販会社として有名な「ジャパネットたかた」の創業者であり、テレビショッピングで商品の魅力を紹介するMCとしての高田氏はとても有名です。そんな高田氏の「伝える」力のノウハウは何か、誰もが興味を持つことですし、この本を読むときはそれを期待します。こんな言葉が紹介されています。

 

例えばMC(司会)の力。作家・井上ひさしさんの言葉に「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」というものがあります。MCもまったく同じです

 

商品というのは体験的に腑に落ちるシチュエーションを頭にまず思い描いて、商品の先にある本来の役割と価値を、使用者目線で伝えていくことが大切だと思っています。それは結果的に開発者の真の想いを伝えることにもなるでしょう 

 

では、この部分を読めば、この本から学べることは全てかというと、そうではありません。もちろんこの部分もおもしろいですが、この本の面白さは、その後ろにあります。なぜ高田氏がこのようなことを言うのか、という考え方の理由、背景です。

 

〇 高田氏は世阿弥に弟子入りしていた?

 

世阿弥」とは、室町時代の能役者で、能を大成させた人です。日本史の教科書で見たことのあると思います。この世阿弥の著者に「風姿花伝」という本があります。高田氏は、この「風姿花伝」の内容をこの本のところどころで紹介しています。

 

テレビで商品を紹介するときにどういう話し方をしたらいいのか、会社の経営方針はどうあるべきかなど、高田氏のビジネスのあらゆる場面において、「風姿花伝」の話しがでてきます。いかに高田氏が「風姿花伝」の内容に感銘を受けそして影響を受けたのか、ということが良く分かります。

2004年3月にジャパネットたかたは顧客情報流出事件を起こしていますが、なんと、そのときの対処の仕方にまで「風姿花伝」の影響が現われています。この対処は後に危機管理の専門家から評価されるほどのものでした。

 

室町時代というはるか昔に書かれた本であり、また、能という芸術に関する本なので、現在のビジネスとはまったく関係ないように見えますが、高田氏の傾倒振りは半端ではありません。

600年のときを超えて高田氏は、世阿弥に弟子入りしてしまったかのようです(笑)

 

 

〇 「本物」は「つもり」を絶対に許さない

 

高田氏の言葉のひとつです。この言葉は、「本物、つまりプロの目をごまかすことはできない」という意味として理解することはできます。そういう表面的に理解することもできますし、それだけでもこの言葉にはそれなりの深い意味があるとは思いますが、高田氏がこの言葉に含めている意味は、さらに深いです。

 

よく、人は慢心してはいけない、謙虚でないといけないということが昔から言われます。さいきんは、必ずしもそうでなくて良いという意見も強いですが、高田氏のこの言葉の真の意味を理解すると、昔の人の言っていることは確かにそうだなあと納得することができます。じつは、私自身も、どちらかというとそういう昔から言われていることに反発するタイプなのですが、高田氏のこと言葉を理解してしまうと、納得せざるをえません。

 

高田氏自身は、自分は伝えることしかできない、と言っていますが、その考え方は、仕事の内容、分野を問わず通用します。その分野で成功しようと思う人は、高田氏のことの言葉をしっかり記憶しておくべきです。

 

〇 何事からも逃げない。高田氏は、本当に逃げない

 

「何事からも逃げない」という人生の処し方自体は、とくに珍しいものでもなく、「それは違う」と言う人はあまりいないと思います。しかし、本当に実際に逃げないのか、という行動を見てみると、その時々の状況によって言動が一致しないケースが多いのが、現実です。

 

しかし、高田氏はその言動がかんぜんに一致しています。例えば、2004年3月に顧客情報流出事件が起こります。このとき高田氏は、テレビショッピングの番組の放映を49日間自粛し、なんと、その結果、150億円の減収となりました。いくらふだんから「逃げない」と言っている人でも、150億円の減収から逃げないことは本当にできるでしょうか?ほとんどの人は、「逃げない、とは言ったけど、150億円となるとちょっとねえ。」とか、「それはそれ、これはこれ」とか、「法的には自粛する義務はない」みたいな口実を並べて逃げてしまうと思います。

口実を並べて逃げようと思えば逃げられるのにあえてしないところに、高田氏の「本物」を感じます。そうだからこそ、なぜ高田氏は、そういう行動をとることができるのか、高田氏の考え方はとても興味深いです。

 

これだけではありません。高田氏は、「人口減少」、「格差」ということについても、そんなのは言い訳にすぎないとし、決して逃げません。高田氏は、現在、ジャパネットたかたの経営には一切関与せず、長崎のサッカーチームで経営危機に陥った、サッカーV2リーグ「V・ファーレン長崎」の社長を2017年からしています。ここでも、言動がしっかり一致しています。

 

この本は、高田氏の伝える力を説明してくれていますが、それだけを吸収して終わりとするのは、まったくもってもったいない。伝える力という技術的なところだけでなく、その背景にある高田氏の考え方、姿勢も含めて吸収すれば、本当の伝える力が身につきます。そしてそれが身に付けば、どの分野、どの業界の営業の仕事もできるでしょうし、また、伝える力があれば、周りを巻き込む力を持つことになりますので、営業以外の仕事であったとしても、成功するでしょう。

世阿弥に弟子入りするつもりで、この本を読んでみましょう(笑)。