日々読書、時々一杯、折々投資

モグパクです。都内で働くサラリーマンです。 新書・文庫を1日1冊読むのを日課にしてます。あと、酒(主に日本酒)を飲むこと、投資をすることが好きです。

目からウロコが落ちるとはこの本のためにある言葉です。自分の生活をいまより良くしたいと思っている人に読んでいただきたい本

競争の作法―いかに働き、投資するか(著者:齊藤誠)、ちくま新書、2010年6月第1刷発行、2011年2月第4刷発行、

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タイトルの「競争の作法」という言葉にどんなイメージを持つでしょうか?「競争」という一種の争いごとについてルールがあるといわれると、「いくら争いでもやっていことといけないことがある」ということについての本かなあというイメージを私は持ちました。しかし、じっさいの本の内容はかなり違います。

齊藤氏はマクロ経済学などを専門とする経済学者ですので、経済政策や経済全体について、今まで常識と思われていたことがいかに誤っているのかという話がこの本の内容のメインです。しかしそこから、個人の人生をどのように生きればよいのか、まさにサブタイトルの「いかに働き、投資するか」ということについてのとても貴重なアドバイスが導き出されています。

 

〇「リーマン・ショック」、「戦後最長の景気回復」は何か?

 

どちらも経済ニュースにおいてよく出てくる言葉です。「リーマンショック」とは2008年9月にアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破たんしたことを契機に起こった金融危機を指します。この本によると、2009年の日本の失業率は5%台に達し、過去最大の上昇幅であったと当時報道されました。しかし、齊藤氏はこの報道について誤りではないとしつつも、こう指摘します。

 

もし、2009年の失業率が2002年や2003年の失業率を下回っていることが伝われば、リーマン・ショック後の労働市場が「未曾有の雇用危機」に見舞われたと、賢明な新聞購読者はよもや思わなかったと思う

 

驚きです。じつは、リーマン・ショックの前の方が雇用状況は悪かったとは・・・。そうであれば、たしかに、リーマン・ショックについてそんなに大騒ぎする必要はなかったのでしょう。言い換えれば、すくなくとも日本はそれほど影響は受けなかったと言えるのではないでしょうか。

 

しかし、驚くのはこれだけではありません。リーマン・ショックが世界経済に大きな影響を与えたのは事実で、ではなぜ日本は軽い影響にとどまったのか、その理由は何かという話しです。

「日本経済は強いから」と言いたいところですが、そうではありません。じつは、2008年より前に日本は「戦後最長の景気回復」と呼ばれる時期を経験しています。時期は2002年から2007年です。ではこの時期の雇用状況はどうだったのかというと、齊藤氏はこう述べます。

 

実質GDPをおよそ1割も引き上げた「戦後最長の景気回復」の5年間で、就業者数は、たった82万人、1.3%しか増加しなかったのである

 

つまり、「戦後最長の景気回復」期でさえ、日本企業は雇用を絞りギリギリの水準でやってきたので、リーマン・ショックが起こっても、失業者が大して増えなかったということです。これがリーマン・ショックの日本への影響が軽かった理由です。

と同時に、「戦後最長の景気回復」とは、雇用増なき景気回復であったという事実も浮かび上がってきます。これにはさらに驚きです。それでは、一体何のための景気回復なのか、と言いたくなります。これらをまとめて齊藤氏はこう評価します。

 

「戦後最長の景気回復」期やリーマン・ショックの前後では、豊かさと幸福に大きなずれが生じて、これらの時期には、人々が「幸福なき豊かさ」をめぐって空騒ぎしていただけだったことを、読者にぜひとも知ってもらいたかった 

 

たしかに、このように具体的数字をあげて言われてしまうと、空騒ぎしていたと認めるしかありません。しかし、ちょっと思うのは、空騒ぎしていたのは自分だけではありません。政府もマスコミもみんなそうでした。

 

齊藤氏は政府、マスコミ(評論家も)のいい加減さもこの本で痛烈に指摘しています。齊藤氏の批判の鋭いのは、単に「政府、マスコミは分かっていない」と言うのではなく、政府、マスコミの発言がいかに時々に応じて一貫性なく変化しているかと言う点を、簡潔に端的に指摘しているところです。

これを読んでしまったら、政府、マスコミの言うことを明日から疑って聞くしかないでしょう。まもなく自民党総裁選が始まります。アベノミクスの評価が争点のひとつになると思われます。下馬評では安倍氏の三選確実といわれており、おそらくそうなのでしょうけど、アベノミクスの成果は本当にあったのか、よーく考えてみるいい機会です。

  

〇競争原理に反したがゆえに生じた格差問題

 

「「リーマン・ショック」はあったけど、じつは失業率の上昇はそれほどでもなかった」とすれば、それはそれで良かったのではと思ってしまいます。それは間違いではありませんが、実は、それではすみません。

実際に失業してしまった人にとっては大問題だからです。この後、格差問題が社会的に大問題となり、現在にいたっています。

 

通常、このような話の原因としては、厳しい国際競争に勝つために企業は解雇せざるを得なかったという説明が一般的です。しかし、齊藤氏の考えは違います。リーマン・ショック後の雇用調整が生産性の向上に結び付いていないことを指摘しつつ、こう言います。

 

競争原理を大きく踏み外したので、所得分配上の深刻な問題が生まれた

 

リーマン・ショック」、「戦後最長の景気回復」に対する齊藤氏の分析は極めてユニークでしたが、ここにも齊藤氏の分析のユニークさが存分に発揮されています。

 

齊藤節、絶好調です。

 

〇 齊藤節は、私たちの生活に役立つのか?

 

齊藤節はおもしろいのですが、テーマが、経済政策とか経済全体の話しなので、いまいち私たちの生活に関係があるのかはっきりしません。つまり、それが私たちの生活にどのように役に立つのか、ということです。わたしは2つの示唆、教訓があると思います。

 

齊藤氏は、「リーマン・ショック」、「戦後最長の景気回復」に対する分析に際して、ことさらに難しい理論は使っていません。また、データも特殊なデータではなく、政府統計など一般に入手可能なデータを用いています。でも、一般には指摘されていない鋭い指摘をしています。

ともすれば、小難しい聞きなれない用語を用いた理論や考え方がもてはやされ、単純な理論、考え方はシンプルであるが故に軽視されます。どうも、難しいものをありがたく思ってしまう習性が人にはあるようですが、この本で齊藤氏が示した分析は、それが誤りであること、言い換えれば、基本が大事ということを示唆していると思います。これが1つ目です。

 

齊藤氏はこの本ぜんたいを通して、競争を避けるのではなく競争に向き合うことが大事であるということをメッセージとして発信しています。競争をすれば、良いときもあれば悪いときもあります。人はこの悪いときに耐え難いがために競争を避けてしまうと、齊藤氏は指摘しますが、この悪いときとちゃんと向き合う、言い換えれば、悪いときともうまく付き合っていくということは、私たちの人生においてとても重要です。

 

齊藤氏によると、銀座にエルメスなどの海外高級ブランドが旗艦店を出店したのは、2000年代初め、つまり、日本が不況の真っ只中にあった時期ですが、なぜそんな時期なのかというと、不況のため銀座の地価が大幅に下落し割安になったためです。

ここに悪いときとの上手な付き合い方が書いてあります。つまり、悪いときであっても、むしろ逆にそういう時だからこそ良いことを探すというのが、ここでいう上手な付き合い方です。これが2つ目です。

 

そして、この教訓と1つ目の教訓とセットで考えると、これは、私たちの資産運用、投資においてとても貴重な教訓になるのではないでしょうか。

たとえば、株式投資をしている人であれば、どういうタイミングで買いどういうタイミングで売ればいいのかは、最大の難問ですが、齊藤節はこれに対する答えを示してくれています。

この本は、投資術の本ではないので、一般的な投資術の説明をしているわけではありません。しかし、それよりもっと大事な、瑣末なテクニックではない、また政府やマスコミの言うことに惑わされて買い時売り時を間違えないために必要な基本を教えてくれています。

 

この本のサブタイトルにはまさにこうあります。

 

「いかに(働き、)投資するか」