人間関係で悩んでいる方にぜひ見ていただきたい。気持が楽になります。
豊臣秀吉死去から江戸幕府成立にいたる徳川家康、秀忠、家光の徳川三代の歴史を描いた大河ドラマです。徳川三代はもちろん、徳川家譜代家臣、豊臣家、豊家恩顧の諸将、それを取り巻く女性が織り成すさまざまな人間模様が丁寧に描かれています。
〇豪華俳優陣の登場。これぞまさに名優。百聞は一見にしかず
「名優とは何をもって言うのか?」と聞かれて、その道の勉強を専門的にしたこがある人ならともかく、いっぱんの人が回答することは難しいでしょう。また、自分の考えを述べたとしても、それが周りの人の賛成を得られるとは限りません。つまり、名優の定義は、回答する人の数だけあるということです。
しかし、「葵徳川三代」は違います。これを見れば、100人中100人が「名演技である」と言うと思います。まさに「百聞は一見にしかず」ということわざは、このドラマにためにあります。それもそのはず。登場する俳優を少しだけ紹介します。
石田光成役:江守徹
登場する多くの俳優のうちから一部を紹介しただけでも、これだけの名優がそろっています。なんとも豪華です。既に亡くなった人もいます。これだけの豪華俳優陣の競演はいまでは見られないのではないでしょうか。
西田敏行氏はこのドラマでは、家康の子である秀忠として、家康には時には叱られ、一方で恐妻家のため、正室のお江にはまったく頭があがらないという、なんとも武将として頼りない役を演じています。わたしは、西田氏の「アウトレイジビヨンド」のでの強面ぶりがとても印象に残っていますが、同じ人なのにここまで全く違う役を演じ、かつ、どちらの役も、まさに西田氏が演じるためにあるかのような見事なはまりっぷりで、俳優という職業の奥深さを感じました。
〇迫力の戦闘シーン。本では絶対分からない臨場感
このドラマの見所の一つは、なんといっても、天下分け目の合戦「関が原の戦い」でしょう。東軍、西軍あわせて、20万人に近い大軍が、天下を競って闘う、日本の歴史においてもそうそうない巨大なスケールの戦です。
この見所の特徴のひとつは、詳細な戦闘シーンの描写です。鉄砲隊の発砲、騎馬隊の突入、名のある武士同士の一騎打ちの戦いなどなど、よくぞここまでと言うまでの戦闘シーンの連続です。実際の戦はこのように行われていたのだと実感できます。とくに歴史の本を読んで戦闘シーンを理解していた人には、特におすすめです。これも「百聞は一見にしかず」です。
わたしが特に印象に残ったのは、関が原の合戦当日の東軍の先陣争いです。東軍先陣は福島正則ですが、家康は四男松平忠吉に先陣をきるようひそかに命じます。しかし「言うは易し行うは難し」とはこのこと。先陣を他の武将に譲る武将はいるはずもなく、ましてや福島正則が相手ではなおさら無理というもの。そこで、忠吉の舅である井伊直政が一計を案じ、見事に忠吉は先陣をきることに成功します。わたしはこの経緯を本では何度も読んでおり知っていますが、映像で見たのは初めてですし、どうやって先陣を忠吉がきることができたのか、よーくわかりました。
〇人間関係はよくわからない。でも何とかなる
関が原の戦いでは、西軍つまり石田三成は豊臣家のために徳川家康と討つと宣言します。そして、この石田三成の宣言の正しさは、後の歴史が証明しています。しかし、それにもかかわらず、なぜ、西軍につくべきと思われる武将が東軍についてしまったのでしょうか?
豊家恩顧の諸将、福島正則、黒田長政、藤堂高虎、細川忠興、池田輝政、浅野幸長などは、さいしょから東軍につきましたし、小早川秀秋などはさいしょは西軍につきますが、戦の途中で東軍に寝返ります。
これを、徳川家康の謀略のためであると結論付けることは間違いではありませんが、それだけとはとうてい思えません。また、戦国武将特有の考え、気性もあり、現代のわたしたちにはちょっと理解しがたいところもないわけではありません。
ひとつ言えるのは、理屈・正義は石田三成にあったが、しかし人々は理屈・正義のとおりには動かなかったということです。そして、石田三成の理屈・正義を否定して東軍についたのならわかりやすいのですが、実際はそうではありません。とくに、豊家恩顧の諸将は豊臣家のために働く意思は十分にあり、その意味で、石田三成の理屈・正義には賛同するはずですが、行動はそうなっていません。
じっさい上杉景勝はドラマの中でこう言っています。
正義が勝ち負けを決めるのではない、勝ち負けが正義を決めるのだ
一方、徳川家康はドラマの中で秀忠にこう言っています。
桶狭間の合戦で今川義元が敗れ、わしが人質の身を解かれたとき、三河再興を目指し相呼応して戻ってきた将兵はみな、いったんわしを見限った家臣だった。わかるか、時には味方が敵になり、敵が味方となる。これが戦国の習いと心得よ。こたびは、敵の敵を味方とする。
わたしはこの徳川家康の言葉を聞いて、「人間心理は変わり得るもの。いまは難しくてもいずれは理解できる時もくることがある」と思いました。いま何を考えているかわからず苦手な人がいても、それほど気にすることはないということです。ぜったいの敵もいないしぜったいの味方もいない、いままわりに苦手な人がいてもずっと苦手ということはないということです。そう考えると、少し気が楽になります。
大河ドラマはいわば時代劇の一種。さいきん時代劇は元気がありませんが、それはワンパターンの内容だからです。この大河ドラマはまったく違います。しかも、とても見る人の身になります。さすがNHKという感じです。