日々読書、時々一杯、折々投資

私の趣味をそのままタイトルにしました。 趣味のことでこれいいなあと思ったことを書いていきます。それが少しでもみなさまの参考になればさいわいです。

中年が今後の人生を幸せに生きるためにどうすればいいか、教えてくれる本

「人は「感情」から老化するー前頭葉の若さを保つ習慣術」和田秀樹 祥伝社新書052

2006年11月初版第1刷

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人は誰でも年をとります。もちろん、30代ぐらいまでの人にはその実感は少ないと思いますが、30代後半以降になると、急速にそのことを実感します。たとえば、若いころほどはハードワークできない、運動できない、といった肉体的な違和感がそのきっかけの典型でしょう。さらに年を過ぎれば、名前が思い出しづらくなった、みたいなことでしょうか。通常「老化」という言葉から連想する現象はこんなところでしょう。

 

この本は、そういったことと「老化」の関係を否定し、「感情」に注目し、自発性、意欲、好奇心などの低下を「感情の老化」(39ページ)としてしています。では、どうすればいいのか?和田氏は、

美味しいものを食べ、お洒落をして、ボーイフレンド、ガールフレンドと遊び歩いて、「年寄りのくせに」と顰蹙を買うぐらいのほうがいいのだ(32ページ)

と端的に述べています。

 

こう言ったからといってこの本の価値が落ちることはまったくありませんが、いまご紹介した程度のことであれば、言われなくても分かっている、あるいは、周りの年寄りをみていれば分かる、ということかもしれません。しかし、このことは、たんに、顰蹙がどうのこうのというレベルにはとどまりません。

こうした人は、身なりも構わなくなる。若返りや美容やアンチエイジング(老化防止)にも興味が湧かなくなるので、外見もすっかり老け込んでしまうのだ。それでも一昔前までなら、若返りや美容やアンチエイジングなどはなかったから、前頭葉が老化してようが、そうでなかろうが、ルックスにはあまり差がつかなかった。ところが現代は、若さを保つさまざまな方法がある・・・外見に関する限り、若々しさを保てるのだ。

だから、50代になっても、かつての30代にしか見えない人もいるかと思えば、すっかり老け込んで70歳近くに見える人もいて、極端な差がつくわけだ・・・出発点の「意欲の差」によって、結果に雲泥の差が出るのだ(29~30ページ)

アンチエイジング、若返りの技術が進化したことで、老ける人は従来以上に老けて見えてしまう、なんとも残酷であり皮肉な話です。しかし、この話、単なる見た目にとどまらないところがさらに衝撃です。

和田氏は、65~69歳の歩行能力は1980年代に比べて2000年は10歳ぐらい若返っており、言語性・動作性IQのデータからすると、知的な機能もそれほど人々が思うほど落ちていないとした上で(33~35ページ)、このような指摘をします。

運動機能やIQは低下していなくても、意欲や自発性、その原動力となる好奇心など「感情が老化」してしまって、年をとっているのに体を動かさない生活とか、頭を使わない生活をしてしまうと、いよいよ本当に運動機能やIQまでが衰えていく可能性が高いのだ。つまり「足腰が弱ってきた」「記憶力が落ちた」などよりも、ずっと気をつけなくてはいけないのが「感情の老化」なのである(39ページ)

 それだけ「感情」が大事ということなのでしょうけど、意識をするしないの差は、見た目の差を従来以上に大きくする上、それがさらには、運動機能やIQ低下という形で現れ、下手すれば通常の日常生活にも影響しかねないのですから、文字通り雲泥の差があります。現代のお年寄りは、本当に意識を高く持たざるを得ず、大変です。

 

ここまでの話だけだと、私が直前で書いたとおり、年寄りは大変だなあ、といった他人事の気持ちしか大部分の人は持たないと思いますが、むしろ、年寄りになる前、とくに40代の人はこの本を必死に読む必要があります。なぜなら、「感情の老化」を防ぐためには、それなりの生活習慣を身に付ける必要があり、それは、年寄りになってからでは遅いのです。

私は「40代」が、自分の感情を刺激してくれるものは何かを探したり、試したりして感情の老化予防を始める時期だと考えている。なぜなら、40代も後半になると、自分の仕事人生の先行きがある程度見えてきて、役員になるような人はごく一部なわけだから、多くの人は、多少の「あきらめ」や「失望」を感じ始める時期だからだ。女性で言えば、子育てが一段落して、先が見えてくる時期だ・・・仕事や子育てに代わる、人生の楽しみを見つけることが大切になってくる(52~53ページ)

こう述べた上で、いくつかの「人生の楽しみ」の例をこの本では紹介していますが、見つけるには時間がかかることもあります。そのひとつの方法として、中高年からの「起業」を進めていますが(61~66ページ)、こう述べています。

感情が老化してからでは実際に起業を実行するのは難しいということだ・・・定年後の起業がうまくいくのは、ほとんどのケースで40代からアイディアをあたためていたもの、ということだ(65ページ)

また、退職後、奥さんと親密な関係を保ててる人はともかく、そうでない人は、友人の存在が必要であるとした上で(76~77ページ)、こう述べています。

プライベートな場で、自分の取り柄は何か、仕事以外の土俵で勝負できるのは何なのかを、見つめ直しておくことが必要だ。「麻雀なら誰にも負けない」「カラオケならプロ顔負け」など、どんなことでもいい。それが豊かな人間関係を作っていくために大きな力になる(77ページ)

たしかに、一朝一夕では身に付きません。また、冷酷な現実を指摘しています。

ひとつ言えることは、この3つのいずれかを持っていない限り、軽蔑される年寄り、邪魔者扱いされる年寄りに、確実になってしまうということだ。つまり「自分は金で勝負するんだ」「知識で勝負するんだ」「俺は包容力や、相談能力には自信がある」のうちの、いずれかひとつは、少なくとも確保したいところだ(172~173ページ)

この3つのうち1つを身に付けるのも時間が必要です。よく「暴走老人」という言葉を聞きますが、この3つもいずれも持っていないため誰にも相手にされず、それで暴走してしまうのかもしれません。

 

ところで、和田氏は「感情の老化」が起こりやすい職業の共通点を示しています(92~95ページ)。官僚・公務員、一流大学の教授、学校の教師だそうです。官僚についてはこのように理由を述べています。

官庁に入ると、年次が上がるごとに、それなりの出世はできる。しかも周りの民間企業の人間はペコペコしてくれて、それが当たり前になってくる。私の同級生で、酒を注がれるのを待っている人間は、まず間違いなく「官」に行った連中だ。灘高の同窓会で、官僚になった人間で自分から酒を注ぎにくる者はまずいない・・・やはり環境が人を作る面はある。だから、東大を出ていることが悪いのではなく、人に頭を下げなくても出世できる官僚というシステムが悪いのだ(93ページ)

 分かりやすい説明です。町中で、道を譲らない、何かしてもらっても礼を言わない、といった態度のでかい年寄りはよく見かけます。実際に元官僚かはわかりませんが、同じタイプでしょう。こういことは、急に直すことはできません。やはり、早めの気づきが大事だと思います。

 

ちょっと話はそれますが、私はこの本を読んでいて、先日の知恵に脱帽しました。

偉くなるほど頭を下げる価値は高くなる。下っ端から頭を下げられてもうれしくないけれど、偉い人に下げられると嬉しくなる。下げられた側の自己愛を満たすからだ・・・頭を下げる価値は偉くなるほど上がる。地位が高くなるほど、より詳しくて、教え上手な人を選べるようになる。良質の情報を得やすくなるから、偉い人は頭を下げることで、より賢くなり、さらに偉くなる・・・偉い人から「頼む!」と言われれば一肌脱ごうかという気持ちになるのが人間の心理なのである(162~163ページ)

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということわざを思い出しました。このことわざの意味と和田氏の述べる内容は同じではないのですが、ただ、何をすべきか、という点については見事に一致しています。和田氏は精神科医として人の精神・心理を分析した結果を述べていますが、近代科学の分析が、(おそらく近代科学のなかった)昔から言われていることわざと一致しているところに、先人の観察力、分析力の鋭さを感じました。

 

人生80年とすると40歳はちょうど折り返し地点。少なくとも、若さ、体力という点では、今後これまでよりも成長することはなく、これまでのやり方の延長が通用しなくなり始める年です。

この本は、そんな40代など中年の方が、今後の後半の人生を幸せに過ごすために今から何をしなければいけないかということを教えてくれるありがたい本です。