海外でこうやっているから日本でもそうした方が良いという話に何となく不信感を持っている方に読んで頂きたい本
日本は世界で第何位?(著者:岡崎大五)、新潮新書、2007年11月発行、
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著者の岡崎氏は、1994年から海外旅行専門の旅行添乗員となり、年間約200日を海外で過ごします。海外から日本を見る機会が、一般の人よりも相当多い方と言えます。そんな岡崎氏はこう述べています。
いつも帰国して思うのは、最初の旅で感じたような、日本と世界の認識のズレだった。日本で考えられている現実が、実際には微妙に違っていたりするのだ(中略)日本や日本人に対する羨望や尊敬の眼差しは、侮辱されることよりもはるかに多い(4ページ)
日本の常識は世界の非常識という言葉を聞くことがあります。岡崎氏の話はそれに近いようですが、でも、じつは逆のような気がします。じつは、日本で言われているほど日本は悪くないのではというのが、岡崎氏の言いたいことのような気がします。
こういったテーマを取り上げる本は珍しくありませんが、どのような点についてどういった方法で日本と海外を比較するのか、というのが重要だと思います。日本国内でしか通用しないようなやり方で比較しても、それこそ、日本の常識は世界の非常識となってしまいます。この本は、約70の項目について、データに基づき日本と海外を比較しており、客観性の高い方法をとっています。(データは2007年までのものですので、データ、順位とも、いまは変動している可能性があります)
1 アイスランド 7.61ドル(975円)
2 ノルウェー 6.88ドル(791円)
3 スイス 5.20ドル(598円)
(中略)
32 日本 2.29ドル(263円) (30ページ)
一方、タクシー運賃をみると、
高いほうから世界でナンバー3だ(1位スウェーデン、2位はフランス。「TAXISITE 世界のタクシー事情」より)。(47ページ)
日本は食べることについては安いですが、一方で、かなり高いものもあります。ふだん気づきませんが、日本のタクシーは相当高いことがわかります。さっさと、ウーバーとかを日本に導入したほうがよさそうです。
こんな比較をしています。
オーロラはゆっくり動く。やがて黄色や赤の幕のようなものも出現し、見ていると、こちらまで釣られて体が動いて、空中に浮かんだような気分になった。「まさに神秘だ!」と、こうも感動するのは、いまのところ日本人が主流であるらしい。ヨーロッパ人とかアメリカ人とかは、そんなにも感動しないとか。一説によれば、日本人は自然を愛でる機微に敏感なのだそうである(58~59ページ)
データによる比較ではありませんが、日本人は自然を愛でる機微に敏感という説には、わたしも同意です。
次は、住宅です。いぜん「うさぎ小屋」なんていわれたこともあり、日本の住宅は狭いというのが定説です。単位は㎡です。
1 アメリカ 162
2 ルクセンブルク 126
3 スロベニア 114
4 デンマーク 109
5 日本 94.85
6 オーストラリア 92
7 フランス、ドイツ 90
8 イギリス 87
9 チェコ 84
10 ポルトガル 83 (76ページ)
意外と日本って広いなあって感じます。とっさに思うのは、日本の場合、地方の住宅が広いから順位が上なだけで、東京とか都市部が海外に比べて狭いのは変わらないのではと覆ってしまいますが、それは、日本だけでなく、各国のデータも同じことが言えると思います。ではなぜ、「うさぎ小屋」ということが海外で言われているのか?
資料によれは、ECで日本の報告書をつくったおりに、当初フランス語で日本人は「cage a` lapins」に住んでいると報告されていた。これが英語に直訳というか、誤訳されて、日本語で「うさぎ小屋」となったのである。しかし「cage a` lapins」というフランス語は、「都市型の集合住宅」といった意味もあり、これから連想されるのは、当時開発されていた高島平などの巨大集合住宅であった(76~77ページ)
日本語に訳すときに間違えてしまったということのようです。わたしなんかは、何らかの意図から、あえて誤訳したのではないか?という疑いを持ってしまいます。なぜそう思うのかというと、こんなデータがあるからです。
1 イギリス 141
2 アメリカ 103
3 フランス 86
4 ドイツ 79
5 日本 30 (78ページ)
これは、先進5か国の住宅リサイクル年数(住宅の寿命)です。日本はだんとつの5位です。ドイツの半分以下、イギリスの4分の1以下しか、住宅の寿命がありません。寿命が短ければ、建て替えの回数も増えるので、建設業界が儲かるという流れになります。さきほどの「うさぎ小屋」という誤訳も、意図的に誤訳して、日本の住宅は狭いと思わせて、「より広い住宅=より高い住宅」を売るための建設業界の陰謀では?と疑ってしまいます(証拠はなくわたしの推測にすぎません)。
さいごは美しさです。これはデータにはできません。岡崎氏が選んだ夜景の美しい都市ランキングです。
1 東京(日本)
2 パリ(フランス)
3 ニューヨーク(アメリカ)
4 アムステルダム(オランダ)
6 サンクトペテルブルグ(ロシア)
7 香港(中国)
8 イスファハン(イラン)
9 ラパス(ボリビア)
10 シンガポール (218ページ)
日本が第1位とは意外です。岡崎氏はその理由を「夜、羽田空港の飛行機から眺める夜景は絶景。間違いなく世界一!」(218ページ)と述べています。そう言われても、東京の夜景なの?という疑問はあります。いぜん、日本三大夜景は「神戸」「函館」「長崎」と聞いたことがあるからです。岡崎氏は、これら三大夜景と比べた上で東京を第1位としているのかいないのかは分かりません。しかし、東京の集中度を考えれば、夜に放つ光の量も相当なものであるのはまちがいないので、岡崎氏の評価もわからないでもありません。(誰が選んだのかはわかりませんが)三大夜景を選ぶときに、東京に住んでいる人が多いことからすると(日本の総人口の約10%が東京)、東京に住んでいる人の意見がそうとう反映されたとしても不思議はありません。そうするとこれは、「灯台下暗し」の典型と言えるでしょう。