日々読書、時々一杯、折々投資

モグパクです。都内で働くサラリーマンです。 新書・文庫を1日1冊読むのを日課にしてます。あと、酒(主に日本酒)を飲むこと、投資をすることが好きです。

それまでのプロ野球の見方を変えてしまうかもしれない、プロ野球好きの方に読んで頂きたい本

継投論 投手交代の極意(著者:権藤博二宮清純)、廣済堂新書、2017年12月第一版第一刷、

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プロ野球を観戦していると、ときどきこんな場面に遭遇することがあります。

 

阪神対巨人第〇〇回戦

3-2で阪神1点リードで迎えた7回裏巨人の攻撃。阪神の先発投手が調子を崩し、連続フォアボールにより、ノーアウト1塁、2塁。先発投手を交代させるべきと解説者は言うが、監督はそのまま投げさせたところ、次の打者にホームランを打たれ、5-3で巨人が逆転。

8回、9回は両チームとも0点。巨人の逆転勝利でゲームセット。

 

阪神ファンからしたらとても悔しい負け方です。なぜあのとき先発投手を代えなかったのか?と非難轟々でしょう。でも、一方で、同じ場面で先発投手を代えたからといって二番手の投手が打たれないという保証はない。このように、投手をどのタイミングで交代させるべきか(特にリードしているとき)というのは判断が難しく、こう考えるべきなんてことは誰も分からないと思っていました。しかしこの本のタイトルは「継投論」。まさに、その話にズバッと切り込んでいます。画期的と言えます。

 

投手陣を考えるとき、最初に考えるのは抑え。先発投手の代わりはいるけど、抑えの代わりはいないということです。先発、中継ぎ、抑えの分業制のなかで、先発はやりくりすれば代役がきくんですよ。でも、後ろになるにしたがって代役はきかなくなって。抑えの代わりはもういない。最後の最後、僅差のゲームを勝ったまま終わらせる役割ですから、ここがコケたら勝てません。高い確率で勝ち切ってもらわなければ、優勝争いなんかとてもできませんから。そうなると、抑えにはチームで一番の投手を置きたい。バッターをねじ伏せるような球があって、プレッシャーにも強い投手。ただ、そんな投手はそうそういませんよ。だからまず、「だれを抑えにしようか」が最大の問題になるわけです(26~27ページ)

 

投球数、投球時間からいったら先発投手の負担が一番おおいのは明らか。なので、先発投手こそ代わりがいないと思ってしまいますが、こう言われるとたしかに、抑えの方が大事というのはよくわかります。抑え投手を確保できたとしても、どのタイミングで交代するかは、なお難しい問題です。

 

打たれて代えるんだったら、誰でもやるんですよ。難しいのは、抑えているのに代えるということ。これは勇気がいるんです(52ページ)

打たれて代えるんだったら、スタンドのお客さんでもやるって。僕はいつもそう思ってるわけですよ(66ページ)

 

シンプルかつわかりやすい考え方です。実際の試合ではなかなかできていないなあという印象ですが。しかし、交代させれば終わりというわけではありません。交代して投げさせた投手をいつ交代するかという問題があります。

 

味方の攻撃の間、ベンチにじっと座っている時間、あれがいかんのです。あそこでピッチャーというのは、いろんなことを考えるんですよ(55ページ)

 

これは「イブニングまたぎ」の話です。途中から登板した投手がある回をしっかり抑えます。そして、次の回も同じ投手が投げると、打たれてしまう。これが「イブニングまたぎ」の問題です。ときどき、とても良い内容なのに、1回投げただけで投手を代えてしまうことがありますが、これは「イブニングまたぎ」のためでしょう。調子良かったのになぜ代えるのか?と見えてしまいますが、投手の心理を踏まえると、次の回の投手は、前の回の投手とは別人と考えないといけないということです。

ここまでご紹介した継投論、とても論理的で分かりやすいです。さすがプロだなあと思ってしまいます。スポーツでよくある精神論、選手に根拠もなく負担に耐えることを求める姿勢はまったくありません。

 

よく「プレッシャーを楽しめ!」とか「リラックスしろ、リラックス!」と声をかけるコーチがいますが、そんなことを言っても、選手の気持ちは楽になんかなりません(中略)というわけで、僕は戦う気持ち、向かっていく気持ちだけを表に出そうと、「どんどん行け!」とだけ言っていました(92ページ)

 

とても冷静かつ的確な分析です。

 

メチャクチャ打たれたことが経験になって伸びていくピッチャーは、まずいないですね。打たれて潰れていく選手はいてもね。負けゲームの処理をしながら消えていく人はいっぱいいるわけですよ(中略)プロに入った以上は、とくに一軍に上がった以上は、プライドを守ってやらなきゃいかんですよ。二軍は別ですよ。二軍に落ちたからには、何やらされても二軍の中ですからプライド云々ではないけれど(168ページ)

 

同時に選手の気持ちをとても大事にしていることがわかります。

 

そもそも論を言えば、そもそもプロ野球の監督やコーチは何をするのが仕事かっていうことです。それは、選手に教えることではないんですね(中略)選手の持っている力は、プロに入ってきた段階でもうだいたい決まっているんです。監督・コーチの仕事は、教えることよりも選手の能力や適性を見極めた上で、誰をどう使ったら勝てるのかっていうこと。これがプロ野球の監督・コーチの仕事ですよ(108ページ)

 

教えることをかんぜんに否定しているわけではないと思いますが、教えることよりもすべきことがある、言い換えれば、教えるだけですべきことをしていない監督・コーチが多いということだと思います。ただ、これはプロ野球という、そもそも選ばれた人しか入ってこない世界であることが前提にあると思います。一般の会社ではとても無理でしょう。では、監督・コーチは何するの?ということが気になります。

 

一軍の監督・コーチは勝つことが至上命題ですから、勝つためにはどの選手をどう使うか。これを決めていくのが仕事ですよね(中略)監督・コーチに教えることがあるとすれば、野球の技術ではなくて戦い方です(中略)戦い方というのは、ここでは勝負に行きなさい、ここは勝負しなくていいよといった、勝つための方法ですね(中略)最終的には試合に勝つことが目的じゃないですか。勝負せんでもいい場面、下手に勝負してやられたら取り返しがつかん場面というのはあるわけですよ。だったら、フォアボールでいいじゃないか。そういうことを教えてやる。戦い方を教えるというのはそういうことです(114~115ページ)

フォアボールを出したくないってプライドがあるんですよ。だからスーッとストライク取りに行って、まあ打たれることはなかったですけれども、危ないときはあった。もちろん抑えのプライドは分かりますよ。でもプライドを守って試合に負けたらしょうがない。プライドは最後にお立ち台に立つことで守ればいい。投げている時はプライドよりも、まず勝つことですから(185ページ) 

 

監督・コーチが考える、あるいは選手にアドバイスしてあげなければ、誰もそれをできる人はいないということばかりですね。自分以外の人でもできることは他の人にやってもらい、自分しかできないことを自分がするというのは、一般の会社のルールですが、この監督・コーチ論は、そのルールの見本と言えるぐらいきれいです。「一芸は道に通ずる」ということわざの通りです。