その「コンテンツ」がなぜおもしろいのか、なぜつまらないないのか、という「コンテンツ」を見る目を教えてくれる本
コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと(著者:川上量生)、NHK出版新書、2015年4月第1刷発行、
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「コンテンツ」という言葉は、作品、ソフト、映像、などなど、いろんな言葉を連想させますが、クリエイティブな要素を感じさせる言葉です。また、ジブリ作品なんてきくと、まさにクリエイティブであり、宮崎監督の独創性の現れであると思います。
この本はそんな「コンテンツ」について著者の川上氏が抱く疑問に対する考え方を述べています。その疑問とは・・・
ひとつは、人間の創作活動とは具体的にどんなことをしているのだろうという疑問です(中略)いったいどうやって優れたコンテンツができるのでしょうか。
もうひとつは、人間はなぜコンテンツに心を動かされるんだろうかという疑問です(中略)
最後のひとつは、コンテンツを本当につくっているのは誰だろうという疑問です(24~25ページ)
わたしはこれまで考えたこともなかった疑問ですが、では答えは何か?と聞かれると、答えるのが難しい疑問ばかりです。これが、この本で明らかにする「コンテンツ」の秘密です。これらの疑問に答えることが出来る人は、すぐにでも、ヒット作連発でしょう。
そして、「コンテンツ」の秘密なんて、理屈とか論理で説明できるような話しではなく、ひらめきや芸術の世界であって、普通の人には理解し難く、まさに宮崎監督のような天才にしか理解できない話ではないのか、とついつい思ってしまい、身構えてしまいがちです。
少し脱線しますが、名野球選手の長嶋茂雄氏のコーチを受けても、打者はぜんぜん理解できなかったという話があります。なぜなら、そこでヒューッと、パッと、といったように、擬音語や擬態語の表現が続くので、理解できないという話があります(ちょっと誇張されている可能性はありです)。でも、天才人と普通人の違いは、この長嶋氏と打者の違いと同じと思います。
しかし、この本については、そんな心配はありません。天才にしか理解できない説明ではぜんぜんありません。なぜ、普通の人でも理解できる説明なのか。それは、川上氏がITの世界の人だからです。疑問に対する答えに迫るアプローチが、とても、論理的、科学的です。あるいは、数学的とも言えます。「コンテンツの定義」、「情報量」といった言葉が出てきますし、さらには、脳科学の話まででてきます。もちろん、もともと簡単な話ではないので、それゆえに難しいというのはあります。
こういうテーマの本ですと、宮崎氏の天才的なエピソードとか、偉人的なエピソードを紹介して、だからジブリは素晴らしい作品を生み出せることができるのだといって、いちおう疑問に対する答えを出していますが、けっきょくは、宮崎氏の賞賛に終始しているだけで、聞かされた方は、「宮崎氏はすごいんだー」という感想しか持ちようがない、というパターンがすくなからずありますが、この本はそんなことはありません。もちろん、川上氏の宮崎氏に対する尊敬は明確に述べられていますが、疑問に対する答えにといては、宮崎氏の称賛に終始するということはありません。
わたしのようにコンテンツとは無縁の世界の人間でも、この本を読むと、コンテンツについて何となく分かった気がしてしまいます。たとえると、いままで目の前が真っ暗でがまったく見えなかったのが、この本のおかげで、闇に眼が慣れてなんとなく、コンテンツがどんな姿をしているのかはおぼろげに分かったという感じです。
これからは、コンテンツを見る時、ただおもしろいおもしろくない、と感じるだけでなく、なぜおもしろいのか、なぜおもしろくないのか、というその理由もすこしは意識することができそうです。これまで以上により深くコンテンツを楽しむことができます。